■ 「パゴダルーフ」と言えばMercedes-Benz 2代目SL W113の特徴ある凹んだルーフの事と、メルセデスファンならずとも旧車ファンなら広く認知されている処です。最近その「パゴダルーフ」のある記述に疑問が生じたのでもう一度おさらいをしてみました。
■ W113のデザインを手掛けたのはポール ブラック:Paul Bracq(1931年フランス生れ)で、1957年ダイムラーのチーフデザイナーに抜擢され、W113の他にW108/W109、W114/W115等の縦目メルセデスの多くを担当しました。1970年にはBMWに移籍、E24を代表する逆スラントノーズ時代を築き、1974年にはプジョーへ・・・そして現在も氏はアーチストとして、またレストアショップオーナーとして現役で活躍されています。
■ そもそも「パゴダルーフ:Pagoda Roof」の”パゴダ”とは日本ではもっぱら「ミヤンマー様式の仏塔(ストゥーパ)」の事ですが、”パゴダルーフ”と言えば建築用語で「アジア全域でよく見られる建築様式で、仏教に関わりある建築物における大きな庇の両端にいくにつれて反り上がった形状の屋根」を表します。
■ パゴダルーフの機能として、乗員の頭上部分のクリアランスを確保しつつ、中央部分を凹ませる事で全高を抑え前面投影面積の減少と低重心化を図り、さらにルーフパネルの面硬性を上げることにありますが、何よりも際立ったデザイン的特徴(個性)を与える事に寄与しています。
■ そこで当初の「疑問」についてですが、最近のトヨタ車アクアやプリウス・FT-86の空力テクノロジーの解説にこの「パゴダルーフ」が使われています。アクアや2代目プリウスの「かもめ形状の屋根」は僅かに両側が高くなっている事からパゴダルーフの発展形と言えます。しかしFT-86(同スバルBRZ)の屋根は確かに溝状に凹んではいますが全体としては明らかに中央が高くどう見ても逆反りしているようには見えません。同様な形状にトヨタ2000GT・MR-Sのハードトップ・マツダRX-8等がありますが、これを「パゴダルーフ」というには私は疑問を禁じ得ません。
■ W113のチャームポイントとなった「パゴダルーフ」ですが、実際は開発の最終段階で変更決定されたもので、大胆なデザイン変更にはかなりの葛藤があったことが想像できます。その判断が正しかった事を後に証明することになりますが、販売当初は「パゴダルーフ」とう言う表現には消極的だったそうです。
「パゴダルーフ」は3代目SL R107にも継承されました。ルーフの凹みは少し抑えられたものの、その凹みは僅かにトランクリッドにも反復され、R107の伸びやかなデザインに貢献しています。
愛称「Pagoda SL」:W113は、広いグラスエリアと居心地のよい室内空間、コンパクトでキュートで「エレガント」と呼ぶに相応しく、生産終了から40余年経って色あせるどころか益々輝きを増すばかりです。
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