東洋の宝石

■ 少しメルセデスからはなれますが・・・

去る2月8日、GKデザイン機構会長の栄久庵憲司氏が亡くなられました(享年85歳)。心より哀悼の意を表明したいと思います(合掌)

氏は広島県出身の日本工業デザイナーの草分けで、僧侶でもあるというユニークな経歴の持ち主でした。代表的な仕事にはキッコーマン醤油卓上びん・ヤマハVMAX・コスモ石油や日本中央競馬会、東京都のロゴ-マーク・ゆりかもめ、秋田新幹線の車両デザイン等々数え挙げればキリがありません。

■ 故郷広島をこよなく愛され、原爆投下後の焼け野原が氏の原点であり、モダンデザインと東洋思想を融合させながら「人」と「道具」のあるべき関係をデザインによって提案し続けて来られました。今から27年前、当時広島に籍をを置いていた私は、何度か氏の講演を聞く機会がありました。30代半ばの私は氏の言葉に「デザイン」の"意味"を、また"使命"の何たるかを改めて認識させられる事になりました。

 

■ 1961年に発表された「キッコーマン醤油卓上びん」、この小さな作品に氏のデザイン哲学の全てが盛り込まれています。美しい有機的な曲線と、天端・底面の直線の調和。綺麗な透明ガラス製のボトルと、赤い樹脂製のキャップ、そこに醤油を満たした時の黒の3つの色のバランス。そして液ダレのしにくい注ぎ口、安定性、手に持った時の感触と、機能的にも十二分に配慮されています。どことなく"和"の雰囲気を持ち合わせ、"機能美"と表現するにふさわしいシンプルなこの醤油さしは、発表から54年たった今でも決して色褪せていません。延にして4億個以上生産され、世界の食卓にさりげなく「和の心」を添えています。

 

■ 氏の言葉にある「東洋思想」の「東洋」とは、広義の意味においであって正確には「日本」そのものです。多くの源泉は大陸にあっても、島国日本はそれを培養熟成し独自のものに育て上げてきました。それが同じ北東アジアであっても日本だけが「特別」である所以です。"Cool Japan"ではないですが、その"日本的なるもの"すなわち「日本的価値観」が今世界から注目を浴びています。近代史を強引に一口で言えば「西洋的価値観」が世界を制覇する歴史であったと言えます。そして今現在、一見世界を制覇したかに見えた「西洋的価値観」は、決して盤石ではない事がはっきりしてきました。人々は今再び「迷いと不安」の中にいます。この「迷いと不安」を解く鍵は、ひょっとしたら「日本的価値観」・「日本思想」の中に隠されているかもしてません・・・「東洋の宝石」が光を放つ時代が来るかもしれません。

 

   ・・・・・・・・どうせ誰も読んではくれないのだから、自己満足の世界です。 ^^ゞ  (六)